自動車ニュース
地域住民でつくる移動便 高齢者の生きがい、子育て世帯サポート (1/2)
神戸市北区の北西部、三木市に隣接する淡河町(おうごちょう)。人口約2,500人の小さな町だ。公共交通空白地帯であるこの町には、神戸市で唯一、公共交通空白地有償運送として地域住民が自家用自動車で運行する「淡河町ゾーンバス」が走っている。

■移動で生活の質も向上させる
淡河町ゾーンバスは2018年5月から淡河町地域振興推進協議会が主体で運行している。診療所便やデイサービス便、帰宅支援便など生活に必要な移動の他、グラウンドゴルフ便や食事会便など、QOL向上のための移動便も存在する。乗車料金は1回300円だ。ドライバーは農業従事者や主婦など、本業と兼ねる形で地域住民が担っている。
平成18年に創設された自家用有償旅客運送制度では、地域住民の生活維持に必要な輸送がバス・タクシー事業によって提供されない場合、市町村やNPO法人が自家用車を用いて有償で運送できると定めている。淡河町自治協議会の山崎昌二会長は「三木と三田、三木と岡場を結ぶバスは2時間に1本くらい。吉川と三宮の路線バスは一日3〜4往復。タクシー会社は町内になく、地元の足は地元で確保しないと生活できない」と公共交通空白地帯となっている淡河町の現状を話す。地域振興推進協議会の事業部長であり、ドライバーを務める武野辰雄氏も「自家用車の所有が当たり前の地域。すぐそこの診療所に行きたいのに移動手段がない」と町内の公共交通が不足していると嘆く。
淡河町ゾーンバスの運行ルートは定時定点で、診療所便、デイサービス便、グラウンドゴルフ便、幼稚園保育園便、帰宅支援便、お食事会便、町内イベント便の7便がある。利用者数は1日あたり約20〜30人で、1カ月に400〜440人が利用している(いずれも延べ人数)

■ドライバーが自然と担う地域サポートの役割
武野氏は利用者について、「高齢者、学生、運転できない人が利用しているが、95%は高齢者。免許も返納して自分で運転ができない。車に乗るときのステップ・段差でさえ、足があがらない方が大半」と話す。基本的には定時定点運行だが、必要に応じてドライバーが玄関先まで迎えに行くこともあるという。運行計画表にも『バス停から離れている高齢者については自宅近くまで運送する場合がある』と丁寧に記されている。
行き先の8割を占める医療機関では「ドライバーが病院の部屋まで送り届け、靴を脱がせたり、診察券を取ってきてあげたりする」(山崎氏)という光景が見られる。武野氏は、「ドライバーが淡河町民だから、無条件の行為。どのドライバーも同じことをしている。外出のお手伝いをしてあげたい」と微笑む。淡河町ゾーンバスは、ただの移動手段ではなく、住民の日常生活を支えている。また、グラウンドゴルフ便やお食事会便、町内イベント便は高齢者の外出のきっかけづくりにもなっている。「まずは命を守るための移動手段。次に生活の質。高齢でなかなか外に出歩くことがない人でも、俳句やカラオケなどの趣味を持っているのなら、外に出て生きがいを探って欲しい」(武野氏)。
幼稚園保育園便は、仕事などで幼稚園の終了時間に迎えに行けない母親に代わり、保育園での一時保育へドライバーが子どもを送り届ける。武野氏は「入園したての頃は乗車拒否で泣かれるが、だんだん慣れてきて、『おじちゃん』と声をかけてくれる」と話す。高齢者の移動支援だけではなく、子育て世帯のサポートも担う。